Murder for Two〜Perfectで愛しいSurprise的雑感
Murder for Two@世田谷パブリックシアター
初見の感想は、
「凄いモノを見てしまった!」
perfectで愛しいsurprise!!
この舞台は、一言でいうとこれ!!!!!!
舞台で役者さんが何役も兼ねるのはよくある。
もちろん、演技も変わる。子どもだったり、性別が変わったり、それは衣装やメイクやセットも変わったりするから、見ている方もすっと受け入れられる。
あとで、あれ?このキャラもあの人がやってたんだ!とか、全然気がつかなかった!というのもある。
が、このミュージカルは全く違った。
演者は男性ふたり。衣装は三つ揃えのジャケットナシ。
メインセットはグランドピアノ1台。左右にドアがひとつずつ。
これで登場人物が13人。ドアの擬音も入れたら14?
松尾貴史さんが演じるというのが、まず恥ずかしながら驚きだった。
キッチュは面白いことをやってくれる、博識で、タモリさんと同じジャンルという薄ーい認識で、ドラマやナレーターでいい声してらっしゃることは知っていた。
でも、ミュージカル?歌うっすよ?ミュージカルですよ?(クドい)
そして、我らが坂本昌行氏!ミュージカルスターはもちろんだったけど、ピアノ?初心者で特訓してるとかいいながら、野球してましたよ?マジで。しかもキャッチャー(クドい)
あらすじを追っても仕方ないので、海馬に残っているわずかなものと、雑誌やWSなどに縋りながら書き留めておこうと思う。
坂本くんのパートでは、ダーリア・ホイットニーが一番好き。
殺されたアーサー・ホイットニーの妻で、なんとなくだけど背が高いおばあちゃま。
キーは大きな丸めがね。
腰を曲げて甲高い声でまじめにとんちんかんな受け答えをする。
微妙に音をはずしながらの熱唱。自分の感情に正直に行動する、熱血ばあば。
ピアノに上がってのダンスは圧巻。
坂本くんのコメディアン資質が一番発揮されていたキャラクターだと思う。
セリフはもとより、表情や、動きの間、その空気感はバツグンだった。
夫が殺されたというのに全然悲しんでない。むしろ、開放感いっぱいで、アイスクリームの盗難の方が気がかり。
話が通じないキャラクターにもかかわらず、あのキュートさは筆舌に尽くしがたい。
どこから声出してるの?
できれば、あんなおばあちゃんになりたいなぁと思ったけど、周りは迷惑かも。
中年、老年のヒステリカルな女性2人。
9歳児3人。
ステレオタイプになりそうな世代や年代のキャラクターたち。
演技そのものもそうだが、その七色の声は誰1人として被らない。
松尾さんのパートでは、やはりメインキャラのマーカス。
くるくる変わる坂本くんパートを受け止めるのは、揺るがないどっしりしたキャラクターじゃないと全体が浮き足立ってしまう。
めがねや、葉巻や、キャップなどキーになる小道具でキャラクターをスイッチングできる坂本くんに対し、松尾さんは何も変わらない状態で、誰に相対しているのか演じ分けなければならない。
坂本くんのそれぞれのキャラクターが際立っているのは、松尾さんの受けがしっかりしているからだ。
かといって、静なわけではなく、アドリブを咬ましたり咬まされたり、軽快な受け答えは松尾さんならでは。特にボソッと張った空気を抜くようなセリフ回しは絶妙だ。
バネッサや署長は声だけの演技で、それを体現するのは坂本くん。
お互いの存在そのものをキーとして、話が進む。
その結果、観客にはドレスが見え、白髪が見え、透明人間が見えていく。
舞台に流れる音楽はほぼ生ピアノだ。
メロディや擬音、BGMや心情を表す音たちは、2人が奏でる。松尾さんから弾き始め、並んでの連弾になっていく。
坂本くんのピアノはONE MAN STANDING以来。
あの時だって弾き語りできていた。今回は美しいメロディラインを奏でるわけではないけれど、演じながらだ。坂本くんはほんとに頑張っていた。ちゃんとペダルも踏みながら、ちゃんと弾いていた。
正直言うと、全部弾いていたかといえば、少々疑問は残る。
バレットとマーカスの丁々発止のやりとりをしている最中の連弾などは、なんとなく音が違う?と思ったし、なにより重なっての連弾であれだけためらいなく弾けるものだろうか。
自動演奏という機能と、坂本くんの「指の振りつけ」というコメント、弾いているところが見えない舞台セットになっているところをあわせてみれば、上手に組み合わせてるんじゃないかなと思う。
でも、そこは問題じゃない。
舞台には13人の人たちがいた。
マーカスがステフに「朝食でも?」と誘うときの悪ーい顔や、ヘンリーが「この喜劇を悲劇に変えた」というときの腰の動きが忘れられない。
関ジャニを咬ませてくるシーンや、携帯電話で観客も巻き込むくだりは芸達者な彼らならではだったし、めがねが頭からなかなか落ちてこなかったり、葉巻を落としたり、事故ちゅーがあったり、日々のハプニングを上手に取り込みながら観客をどんどん引き込んでいく。
平成28年6月19日の毎日新聞日曜くらぶ「松尾貴史のちょっと違和感」
『きっかけのセリフや立ち位置、何歩歩く間にこのセリフを言い切る、セリフの最後の文字で相手役の前を横切る』
などの細かく膨大な演出オーダー。
『坂本くんのピアノレッスンの開始は去年の夏、松尾さんは今年の3月』
最大の問題だったピアノも乗り切り、千秋楽まで全公演やりとげた。
松尾さんは3キロ痩せた、と。
坂本くんは何キロ痩せたのだろう。毎週のONE DISHでも顔の輪郭が変わっていき、千秋楽は明らかに衣装に余裕ができていた。
その結果、オリジナル作者のおふたりに
『あなたたちのためにこの作品を書いたような錯覚にとらわれた』
とまでいわしめたのだ。
いうなればこの舞台は、ひとりで何役もやる日本の落語とマイム、ピアノ演奏の複合体。
ないモノを見せて、歌って、踊って、引っ張っていって、出突っ張りの110分。
日本版Murder for Two、松尾貴史と坂本昌行のコンビは最高だった。
俗を漂わせながらも松尾さんはどこまでもダンディだったし、
ノーブルにもビッチにも9歳児にもなれるのは、新しいミュージカルスター坂本くんだった。
世界各国でこの演目をやるらしいが、日本版、胸張れる!
本家Murder for Twoをみても、ね!
チケットの売れ行きを一切気にすることなく演技に集中できたのも珍しい経験
連日満員で、当日券に並ぶ列が日に日に延びていく。
東京大阪でしかなかったこともあるが、一度見た人が、またみたい!と思うからだろう。何回見ても飽きない。楽しい。
劇場はキャパが決まっているので、どんなに頑張っても上限がある。
立ち見までいれても限界があるのだ。
でも、たくさんの人が欲している事実。観れなかった人がどれだけいるか。
そして、私もこうして書いているように、ブログやSNSでいつまでもこの舞台の話をしていれば、きっとまた次の幕が開くのではないかと思うのだ。
これは絶対譲れない!